『お昼になったので死んだ人を発表します。男子十六番野中学、十四番中村光太郎、女子十一番関芽衣子、男子九番佐野慎一郎、十一番須田清。女の子のがやや強いなあ? 女が強いってのはいいことだから、女子はみんなこの調子で頑張れよ。非常にいいペースです!』
”いいペース”だって? バカにしやがって。
死者の名前を呼び連ねる幸の声は相変わらずいきいきとしている。腹は立ったが、敦史は黙って名簿を取り出すと、呼ばれたクラスメイトの名前の上に線を引く。それは嫌なやり方だと自覚していたけれども、今はそれしか方法はない。
『次に、禁止エリア言うからな。今から一時間後の一時からE=5、三時からJ=2、五時からC=9です』
敦史のいるE=9は禁止エリアを免れた。もうしばらくここにいても大丈夫そうだ。使い終わったペンを指の上で器用に回しながら、敦史は考えた。今までずっと考えがまとまらず──いや、この混乱した状況の中、考えたり方針を決めたりすることをしたくなかったのかもしれない。
俺はどうしたいんだろう。死にたくもないけれど、帰りたいとも思えない。
昨夜の分校での出来事が思い出される。母親と話がしたいと泣いていた渡瀬いずみ(女子21番)の最期の顔。彼女に続く者はさすがにいなかったが、みんな思うことは同じだっただろう。家に帰りたい、家族に会いたい、と。同情はした。いきなりクラスメイトを殺されたことに対する憤りもある。しかし、敦史はただ、その時のいずみとその他の者の絶望の表情を傍観者的に眺めている部分もあった。
俺は家に帰りたいと思っていないし、帰ってきてほしいとも思われていない。家に帰りたいなんて、必要とされているなんて幸せなことじゃないか。俺は──。
敦史ははっとして手にしていたペンを握りしめた。
誰かと話がしたい。仲が良かった相澤祐也や菅原大輔の顔が浮かぶ。一人でじっと考え事をしていると、つい投げやりな思考に傾きがちだ。この状況下で、ゲームが始まってから会話ができたのはあの担当教官だけだった。
──あんたに賭けておいて、先生正解だったわ。あたしが儲けるのが嫌で、自殺するような馬鹿じゃないことぐらい分かってるからね。
「クソババアが!」
敦史は体を丸めて歯噛みした。今思い返してみても吐き気がするセリフだった。単に敦史の逃げ場をふさぐための言葉だったのか、それともすべて知っているぞというメッセージなのか。敦史も幸の煽りに負けて、プログラムについての知識を持っていることを口走ってしまった。こうしている間にもマークされていることは間違いないだろう。それでも、あの担当教官の思い通りになどさせたくはない。
俺はきっと、このプログラムのどこかで死ぬかもしれない。それでもいいと思ってしまっている自分がいるから。けど、今まで相澤や菅原と一緒に過ごして楽しかったんだ。学校で過ごす時間が心から楽しかった。だから俺が持っているヒントで二人が助かるなら。
いまは負けてたまるか。無駄にしてたまるか。
デイパックを担ぐと、豪快に木の上から飛び降りる。どさっと着地した音に思わず自分の口を手で塞いだが、あたりには人の気配はないようだった。……そうか、このゲームの最中なんだった。
少し顔を顰めると、敦史は踵を返して南に向かって歩き出した。
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